院長コラム

No.53 人生の絶景を

2020年01月15日

去年の年末、ピアニスト・館野泉さんと生命科学者・中村桂子さんとの対談をテレビで聞きました。館野さんは、28歳のころからフィンランドに住んで音楽活動をされているですが、2002年1月にコンサート終了直後に脳出血に倒れて、以後右半身に麻痺が残ったといいます。

ピアノを弾く人はわかると思いますが、ピアノは右手が主で、左手が伴奏のようなことが多いですから、その右手が動かないとなると、ピアノの演奏としては物足りないものになるのではないかと思いますが、実際その演奏を聞いてみると、その美しさに自然と目を閉じ、心が透明になっていく感じがします。確かに、片手なので音はひとつなのですが、「このうえなくうつくしいもの」として心に響いてくる。不思議な力があります。

館野さんのように、超一流の芸術家が、できていたことができなくなる、あったものが無くなる、というのはその喪失感たるや想像を絶するものだと思います。館野さんの場合、右手に麻痺が残って1年ほど経った時、息子さんが“左手のためのピアノの楽譜”をそっと置いて行ったのを機に、“左手だけのピアノ”を弾き始める事になります。そして、今、左手だけから奏でられるその音からはピアノに対する慈しみを感じるのです。

それまでの人生をかけて努力をしてきたものが、病気や怪我で存続できないとわかった時の張り裂ける心の痛みは、深く冷たい暗闇の中に突き落とされ二度と這い上がれないような絶望と恐怖だろうと思います。神はなぜ、何のために、努力に努力を重ねた者からその努力の結晶を奪うのか。これから羽ばたこうとする若鳥の羽を奪うのか。自分の運命に慟哭したであろう私の友人の事を思う度に涙が溢れます。

人生の幕が降りるまで、その人の人生は終わりません。艱難辛苦はそれを乗り越えられる人のところにやってくると言いますが、本当にそうでしょうか。私にはわかりません。苛烈を極める運命をなぜ友人が背負わなければならなかったのか。

しかし、「艱難汝を玉にす」の言葉のように、すさまじい試練を乗り越えたものには、生ぬるい人生しか生きてこなかった者には見ることのできない、人生の絶景が広がっていると思います。

世の中には、多くの試練があります。肉を引き裂かれるような試練が、それを乗り越えた人の人生にどのような光を投げかけるかわかりませんが、我々凡人には見ることのできないまばゆい光が必ずや射し込むと信じています。

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