院長ブログ(No.172 治療の引き時)|大阪のがん免疫療法(免疫細胞治療)緑地公園駅 内科 北大阪メディカルクリニック

院長ブログ

No.172 治療の引き時

2022年10月30日

ターミナルケアの定義として最も古いものは、1973年のイギリスの医師Holfordによるものらしく、ほんの50年前なのですね。イギリスにおいて、Saunders医師が最初のホスピス病棟をつくり、癌末期患者のためにターミナルケアを始めてからまだ50年。

医療は本来、病気を治す、命を救うというのが目的です。しかし、ターミナルケアはそれが不可能だと考えられ、余命が数か月であろうと推測される患者さんに対して、辛い症状を軽減し、患者・家族が穏やかに最期を迎えられるように支えようというものです。

前出のSaunders医師は、ターミナルケアにおいて大切なこととして次のようなことを述べています。
・患者を1人の人格体として扱う ・苦しみを和らげる ・不適当な治療を避ける など

この「一人の人格体として」という、つまり患者さんの病気を見るのではなく人として診ることはとても大切ですが、未だなお、終末期においても病気にのみ目が向いてしまっていることが少なくないと思います。「不適当な治療を避ける」ということも大切なことで、ヒトは自然界の中のいち生き物ですから、手の出しすぎはいけません。ターミナルケアでは、積極的治療は行いませんし、輸血や高カロリーの点滴なども行いません。ヒトが自然に帰って行くのを見守っているのです。

さて、内科的がん治療として、抗癌剤治療をいつまでするかという問題ですが、当院に来られる患者さんで、初診時には抗癌剤治療を受けられていて、その後数か月で亡くなられるかたがおられます。抗癌剤治療をすることを患者さんが望んでおられるのか、医療者側が提案しているのかはわかりませんが、命の際まで「積極的治療」と言う名の抗癌剤投与を受けられているかたは結構多いように思います。

主治医は患者さんにどのようになって欲しいと思って抗癌剤を投与しているのでしょうか。患者さんのなかには、抗癌剤を中止することに不安を感じて抗癌剤の継続を強く希望するかたがおられますが、希望しないかたもおられます。つい先日来られた方も「抗癌剤をするとほとんど寝たきりになって、やっと体調が戻ってきて少し食べられるようになると、また次の抗癌剤が始まるんです。でも主治医の先生には休みたいって言いにくいんですよね。それに投与の間隔をあけたらそれまでの抗癌剤治療の意味がなくなるって言われるからあけられないし」といわれました。

何のために抗癌剤投与をするのか。「抗癌剤治療」なのか、「抗癌剤投与」なのか。「治療」とは、病気や怪我を治すこと。または症状を軽快させるために行う行為です。かなり辛い治療でも、治る可能性がある程度見込めるのであれば、治療を積極的に勧めます。しかしそうでない場合、どこまでお勧めするのが良いのか。この前、患者さんが「点滴にかぶせてある袋を上げてみたら“毒”って書いてありました」と仰いましたが、そうなのです。相手は手ごわいですから、治療も患者さんにかなりの負担を強いるものになります。そのような点滴をいつまでするのか。

ヒポクラテスは、「医師が病を治すのではなく、身体が病を治す」と言っています。つまり、「人の体にはもともと “治ろうとする力” があり、医師の役割はその力を助けることにすぎない。治療や医療行為というのは治る力を助けるものでなければならない」としているのです。つまり、患者さんが本来持っている力を損ねるようなことをしてはならない、ということであって、抗癌剤投与をどこまでするのか、やめてはいけないのか、とても悩ましい。

攻めることも大切だけれど、手を引くことも大切で、その引き際を見極めることは難しく、心を痛めます。

一覧に戻る