院長コラム(No. 146 「養老先生、病院に行く」を読んで)|大阪のがん免疫療法(免疫細胞治療)緑地公園駅 内科 北大阪メディカルクリニック

院長コラム

No. 146 「養老先生、病院に行く」を読んで

2022年02月01日

2020年6月、養老先生が心筋梗塞で東大病院に入院した際のお話などが書かれてあります。
「バカの壁」の著者として有名な東大名誉教授の養老先生。よっぽどのことがなければご自分からは病院に行かれないそうですが、さすがにこの時はしんどくて病院を受診し心筋梗塞が見つかったそうです。

さて、なぜ養老先生が病院に行くのに決心がいるのかというと、『現代の医療システムに巻き込まれたくないから』だそうです。『このシステムに巻き込まれたら最後、たばこを止めなさいとか、甘いものは避けなさいとか、自分の行動が制限されてしまいます。だから行きたくない』と。そうですよね、病院に入院などするとそれまでの自分の生活をかなり変えないといけない、これは確かにストレスです。折角生活を豊かにする趣味をみつけ、年月をかけて居心地のいい空間を作ってきたのに、それから遮断されるとなると確かに辛い。

そして養老先生。
『医者選びの基準は「相性」です。医者選びは自分と価値観が似ているかどうかも重要です』と書いています。勿論、医師としての技量、知識というのは必要ですが、その次に基準となるのは「考え方」が似ているかどうか。つまり、医療、治療に求めるものが同じか、向いている方向が同じかという事です。してほしくない治療を勧められるのは苦痛です。抗癌剤を受けたくないのに、「抗癌剤治療がガイドラインに沿った治療だ」と強いられると苦痛でしょう。もっと抗癌剤治療を受けたいのに「緩和ケアに相談に行ってみてください」といわれるのも嫌でしょう。
いろいろな考えを持った患者さんがいるのと同様に、いろいろな意見を持った医師がいます。自分と近い考え方の医師のほうが率直に思いを話せるので納得した医療を受けやすいですね。

養老先生。『昔の医療のほうが人間的だった。今のお医者さんは患者さんの生活とかに配慮できなくなってきている。ガイドラインに沿った治療も必要だけれど、治療しないことも含めて幅広く対応するというのは今の医療にはありません』。
私もそう思います。病院に行くと「エビデンスがある、ない」とよく言われますが、これは「数字」です。感覚的にいうと「血が通っていない」。こんなことをいうと非論理的だなんて言われるかもしれませんが、やはり人間は感情の動物であって機械ではありませんので、「型」にはまった「無機質」な対応はそのうち受け入れられなくなり、いずれまた「血」の通った温かいものに戻っていくのではないかと思っています。

勿論、医師が好き勝手に感覚で治療するのは良くありませんからガイドラインは必要です。しかし、それに縛られることなく、それぞれ個人個人にあった形に修飾・変形していく。ガイドラインという骨組みに自分にあった肉をつけていく、その肉付けの方法、場所、形が大切なのだと思います。

養老先生。『以前の医療が扱っていたのは現実の体でしたが、今の医療が扱うのは人工身体です。現実の身体はもともとあるものです。しかし、人工というのは頭の中で組み立てたものです』
最近は、「電子カルテばかり見て、患者を見ない」と言われるかたが多いのですが、つまりはこういう事ですよね。いろいろなデータから医師の頭の中で組み立てられた「人工的な身体」。しかし目の前の患者さんは「現実の生身の体」、と養老先生は仰ってる。

このところ発熱外来で忙しい日々ですが、先週末、珈琲片手に本を読んでみた感想です。

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