院長コラム(No. 135 治療したのに悪くなる)|大阪のがん免疫療法(免疫細胞治療)緑地公園駅 内科 北大阪メディカルクリニック

院長コラム

No. 135 治療したのに悪くなる

2021年11月15日

病気には、いろいろな病気があります。インフルエンザのような感染症だったり、事故による骨折だったり、高血圧のような内科疾患だったり、悪性腫瘍だったり。これらは「治る」「治らない」で考えると、大きく二つに分けられると思います。感染症や骨折のように外部からの原因で病気になったときには大概治ります。しかし、高血圧や悪性腫瘍のように内部からおこる病気は、なかなか治せません。多くの場合は、コントロールすることが目標となりますが、コントロールができずに悪化するものもあります。

中でも、「がん」となると、手術ができれば「治癒」への道も広がりますが、抗癌剤だけで治すというのはハードルがかなり高いのです。しかし、患者さんは「良くなるために」治療を受けるわけですから、良くならなければ「治療を受けているのに良くならない」「入院しているのに悪くなった」と思うでしょう。中には、「適切な処置をしていないのではないか」「ちゃんと診ていなかったのではないか」「なぜ悪くなるのがわからなかったのか」など、患者さん、ご家族の思いは強いものがあります。

しかし、病気を治すというのは、上から下に降りてきた身体を再び元の位置まで戻すようなイメージなのです。外部からの要因で病気になるのは、階段を下りてきた感じ。なので、また自力で階段を上っていけば上に戻れます。しかし、がんのように内部からの要因で病気になるのは、滑り台のイメージなのです。ですから、その勢いを止めることはそう簡単ではありません。まずは、滑ってきた身体を受け止める。そして「治す」というのは、その身体を抱えて滑り台をのぼっていくイメージですから、なかなか治すのは難しいということは感じて頂けると思います。もちろん、身軽な子どもなら滑り台を駆け上がることもできるでしょうから、早期に見つかって外科的に治してもらえるがんはたくさんあります。しかし、身体の大きな大人を滑り台の下からに上に押し上げるのは難しいように、支えきれずにずりずりと下がってしまうこともあるでしょう。それが、病気で言うと“悪くなる”です。

医療従事者は、患者さんが滑り台を滑ってくるのを受け止めたい、できるならもう一度元の位置まで押し上げてあげたい、つまり病気を治してあげたい、元通りの機能を取り戻して欲しい、と思っています。けれど、その勢いを止められない事もあります。病気は「治療すれば良くなるもの」ではありません。

医療従事者は、患者さんに良くなって貰いたいと願っています。病気になる前の健康を取り戻して欲しいと願っています。けれど、思っていたように回復せず病状が進むことはあります。術後経過が芳しくないこと、抗癌剤の効果が見られないこと、再発してしまうこと、思わぬ副作用が出てしまうこと。いろんな事は起こりえます。しかし、それらをわかった上で、“治療することのほうが望ましい”と思えば治療をします。「良くなって欲しい」と思って治療をしますが、「必ず良くなる」と思って治療をしているわけではありません。そして、“治療することは望ましくない”と思えば治療をしません。なぜならそれは「治療」ではないからです。

患者さんと医療従事者とでは、良くなりたい、良くなって欲しい、という思いは同じなのに、行き違いが少なからず起こります。お互いが一生懸命しているのにすれ違ってしまうことがあります。それぞれ人生観も物事の捉え方も違いますから、説明したことがうまく伝わらないこともあるでしょう。医師としての立場からすると「入院したのに悪くなった」という言葉を聞くと辛く思います。ですから、忙しい病院の先生方に代わって医療現場をお伝えすることで、少しでもお互いの溝を埋めることができればうれしく思います。

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