院長コラム(No.129 その人にとって大切なこと)|大阪のがん免疫療法(免疫細胞治療)緑地公園駅 内科 北大阪メディカルクリニック

院長コラム

No.129 その人にとって大切なこと

2021年09月18日

医療の仕事をしていると、厳しい状況の患者さんと接することが多くあります。私も、もうこの世界で30年以上になりますので、人生の終末期を一緒に過ごさせてもらったかたは少なくないと思います。そして、段々と自分の考え方というものができてきました。

医師になって間もない頃、重症心不全のかたがおられて、厳しい飲水制限がありました。身体のあちこちに点滴の管やモニターが付いていて、枕元では心電図モニターの電子音が心拍を拾っています。とても自力で身体を動かせるような状況ではありません。「水を飲みたい」と意思表示をされても、口を潤す程度の水分しか許可されていませんでした。勿論、教科書的には飲水制限が正しいのです。まだ若かった私は「思いっきり水を飲ませてあげたいな」とは思いながらも、「医学的に正しい」とされている飲水制限を継続していました。しかし、その方は、思い切り水を飲むこともなく亡くなりました。

その後、段々と年を重ねるようになり、いろいろな経験をし、自分でいろいろなことを決めることができるようになってくると、「医学的に正しい」ことが「その人にって好ましいこととは限らない」と思うようになりました。

仮に、重症の心不全のかたが、思いっきり水を飲みたいと仰って、その希望を叶えてあげたとしても、多分100mlも飲まないのではないでしょうか。ましてペットボトル1本、500mlなんて飲めません。
医学における私の「良い・悪い」の判断基準は「それを頑張ればその先に明かりが見えるかどうか」です。「今頑張れば良くなる可能性が高い」というのであれば、どんなに厳しくても制限をかけます。しかし仮に重症の心不全の方に厳しい飲水制限をしても「余命4日が5日になる」というようなものであれば、飲んで良いと思っています。良くなる可能性が低い状況であれば、御本人の希望は叶えてあげたいですし、それは「医学的には正しくない」かも知れないけれど、「その人にとっては正しい」と思っています。

もう時効だと思うので言いますと、入院している患者さんが「お酒が飲みたい」と言ったときに、さすがに月桂冠の瓶があると良くないので「紙コップにいれて飲んでいいですよ」と言ったこともありますし、「タバコが吸いたい」と言った肺癌の方に「屋上に行ってきていいですよ。私ここに居ますから」などと言ったこともあります。
患者さんはよくわかっていますから、仮に“お酒を飲んでも良い”と言っても決して多くは飲みませんし、体調からして飲めません。紙コップ半分も多分飲まないのではないでしょうか。タバコもそうです。“吸っても良いですよ”と言っても、10本も20本も吸いません。1本吸えば多分戻ってこられます。

それは外来に来られる患者さんも同じで、「肉は食べない」「刺身は食べない」「白いご飯は食べない」「甘いものは食べない」と、かなりご自分に厳しい方がおられます。もちろん病気の回復のために厳しくされているのは良くわかります。けれどあまり厳しい食事制限は楽しくないですよね。患者さんは良くわかっておられますから、「何を食べても良いですよ」と言っても、決して無茶はしないものです。それに、仮にケーキを一つ食べたからといって病気が悪くなるとは思えません。

何が正しいのか、それは人によって違います。私も年をとってきたせいか、いや、結構前からですが、「医学的には」正しくなくても、「ま、いいんじゃないですか」と言っています。その人にとって、今のその状況のその人にとって、何が一番望まれることなのかを考えたいと思っています。

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