院長コラム|大阪のがん免疫療法(免疫細胞治療)内科|吹田市 緑地公園駅近く 北大阪メディカルクリニック

院長コラム

No.133 「知らなくてもいい真実を引き受ける」

2021年10月23日

私は読書が好きです。仕事柄、どうしても調べものが多い日常ですが、土日などにはゆっくりと珈琲を飲みながら読書、というのが良いですね。
今日は土曜日、海堂尊さんの本を読んでいました。彼は医師でもありますから、その内容には共感することも多く、次の言葉もその一つです。「真実を知ることが患者の幸せにならないのなら、知らなくてもいい真実を引き受けるのもまた、医者の役割だと思います」。この言葉にはしびれます。かっこいいですね。

インフォームドコンセントという言葉があります。以前にも書きましたが「患者・家族が病状や治療について十分に理解し、どのような医療を選択するか皆で合意するプロセス」。これは、現実的にはかなり難しい。なかなかできるものではないと思います。

人は同時に二つを選ぶことはできません。Aの会社とBの会社に同時に入社することはできません。それぞれ、ある程度の情報を得たうえでどちらにするかを決めるわけですが、思い描いていたものと現実とが違うことも珍しくないでしょう。
医療もそうです。手術か放射線かと言われて決められるでしょうか。抗癌剤をするかしないかと言われて決められるでしょうか。同時に進めることができない以上、どちらかを選ばなければなりません。しかし、いくらそれぞれの説明をうけても、スタートラインに戻ることができない医療においては“選ぶ”という事は大変難しい。

その道に長く携わっている人は、その作業の流れがみえていると思います。たとえば、焼き物を何十年もしている人は、窯に火をいれるのに「この太さの木をこのくらいくべたら、何分後には釜の中の温度はこれくらいになっていて、焼きあがる焼き物はこんな色じゃないか」などというある程度の予測があって仕事をしていると思います。その上で「でも、もしかしたら途中にこんなアクシデントがあって、こうなるかもしれない」とも心得ている。
子育てをしたお母さんが、“子育てとはこんなもの”となんとなくわかっているようなもの。長い人生を生きてきた高齢者が、“人生とはこんなもの”と知っているようなもの。10代、20代の若者にいくら“人生とは”と説明してもわからなくて当然ですよね。

医師も、“この患者さんはこの病気でこんな治療をしてきて、今こうであるなら、今後このようになるのではないだろうか”とある程度の流れを予測できます。しかし、その時に、上記の言葉が出てくるのです。「真実を知ることが患者の幸せにならないのなら、知らなくてもいい真実を引き受けるのもまた、医者の役割」。これはとても重く、医師は満身創痍になるでしょう。よほど度量の広い、懐の深い医師でも、本当の意味でこれができる人はなかなかいないだろうと思います。

インフォームドコンセントは患者さんのためと言います。勿論ある面ではそうですが、そうとも言い切れない部分もあると思います。病気について、全部伝えた方が医師としては荷が軽くなります。「患者さんの知らなくてもいい真実を引き受ける」のはとても荷が重い。「知らなくてもいい真実を引き受ける」ことができる医師になりたい、と思います。

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